センバコキ[千歯扱]
モミスリ
脱穀
黒部峡谷
おんどり
ウチガネ[撃鉄]
コクな話、レベル7
「政府は12日、東京電力福島第1原発について、原子力施設事故の深刻度を示す国際評価尺度(INES)で、最も深刻なレベル7に相当すると発表した…史上最悪と言われた年のチェルノブイリ原発事故(旧ソ連)と同じレベルに並んだ…」(毎日新聞)。
東電や政府当局のこれまでの発表の仕方にたいして、一般市民が「政府当局の発表は、あまり信用できない」と感じはじめました。とりわけ老人たちは、むかしの「大本営発表」のニオイを感じています。動物的・本能的なカンですかね。
「せっかく菅さんたちが一所懸命やっておられるのに、まわりから批判したり、あれこれ注文つけたりするのはコク[酷]だよ」といわれるかもしれません。しかし、もともと国家の危機管理指導者というのは、ザンコクな課題にシゴカレ、民衆にコキ[扱]つかわれるのが宿命です。それがイヤなら、1日も早く選手交代するしかありません。
コク[扱]姿がコク[酷]
さて前回は、カキ[柿・牡蠣・垣]の語音をころがしてみました。今回はコク[扱・穀・谷・酷]の語音をころがしてみます。
たとえば、イネの穂をセンバコキ[千歯扱]にかけ、モミ[籾]だけをコキおろします。これがダッコク[脱穀]作業です。だから、コクモツ[穀物]とは「コク[扱]もの」なのです。
立場を変え、イネの身になってみれば、せっかくのミノリをコキ(シゴキ)とられるのですから、なんともコク[酷]な話です。
コク[穀]もコク[谷]も、コク[扱]姿
現代漢語では、コクモツ[穀物]のことを[谷物]と書きます。ただ単に「同音で、文字の画数がすくないから」ではありません。
コク[穀]は、「固いカラでカコム」姿。コメ・ムギ・アワ・キビ・マメなどの穀物。モミガラ・サヤなどでカコム・ククル・シゴク姿です。
コク[谷]は、「八字型にカコム」地形。アナ[穴]。両がわを岩壁がカコム・ククル・シゴク姿。また、その中をクグリぬける姿です。
コク[穀]とコク[谷]は、もともと「同じ姿」だから「同音」で呼ばれるだけの話。[谷物]と書いても[穀物] の意味を表わせるというわけです。
コク・コケ・コケル・やせコケル
コキおろされ、カキむしられ、シゴキとられた姿という点では、コケ[苔・鱗]やコケラ[鱗](うろこ)もおなじ姿です。新築劇場の初興行をコケラオトシ[柿落]といいますが、このコケラ[柿]も「コキ[扱]にカケラレ、シゴカレ、うすくなった木片」、つまり屋根ふき用の木材のカケラ。コケラ[鱗]とおなじ姿です。
人間の肉体も、コキつかいすぎると、やせコケて、コケラ・カケラ状態になります。
コク[酷]は、コキ[濃]酒
コク[酷]は、「酉+告」の会意兼形声文字。[酉]は、水や酒をいれるカメ。[告]はツゲルですが、もとは「牛の角に制御棒をククリツケル」姿。つまり、「牛をコキつかう」装置です。コク[酷]は、「コキ[濃]酒が舌をシゴク・ヒッカク」感覚。そこから「残酷・冷酷」などの意味用法が生まれました。コク[梏](手かせ)も、おなじ感覚のコトバです。
コクのある話
料理やお酒について「コクがある」などといいます。それは、「味がコク[濃]、舌の味覚神経をコク・シゴクはたらきがある」という意味です。
そんなふうに考えてくると、ヤマトコトバのコク[扱・濃]と漢語のコク[穀・谷・酷]が、音義ともみごとに一致していることが見えてきます。
かなり「コクのある話」になってきました。「世紀の大発見」みたいですが、じつは、一部中国語研究者のあいだでは、なかば常識ていどの話。イズミの独創ではありません。
ただし、ここで「漢語(音)」といっているのは「日本漢字音」、つまり「上古漢語音のカナ表記」であって、現代漢語音ではありません。念のため。
COCKは、もと擬声語
ついでに、k-k音の英語をひろってみます。Cake(お菓子), cook(料理する), cookie(クッキー)などのほか、cock(オンドリ)、cockroach(ゴキブリ)などがあります。
Cock は オンドリ[雄鶏]のことですが、もとはその鳴き声からの擬声語とされています。
そういえば、ヤマトコトバのカケ[鶏]や漢語のケイ[鶏]も、もと擬声語です。ニワトリの鳴き声は東西とも、人間の耳にはk-, k-k音として聞こえていたことがわかります。
Cockには、その生態から「カシラ・親分・大将」、「クサビ型栓」、さらには「(銃器の)ウチガネ[撃鉄]」などの意味用法もあります。擬態語といってよいでしょう。
COCK=コク[扱]もの=コク[穀]
Cockは、ノドをコキつかってk-k音で鳴き、メンドリに精子をコキ[扱]いれ、そのメンドリが有精卵をコキンとコキおとします。やがて、その卵のかたいカラ=カク[殻]をカキやぶってヒナドリが生まれます。この過程は、コクモツ[穀物]をコク[扱]過程とよく似ています。 cockroach (ゴキブリ)がcock-音をもっているのも、古代人がゴキブリの生態を観察して、なにかcockとの共通点を見つけたからかもしれません。