悠学会5月研修会
呉羽山展望台にて、仙石代表
能登と越中の彦姫神
5月24日、悠学会研修会。中島信之さんが「彦姫神社に見る能登と越中考」と題して発表されました。「延喜式神名帳」に見られる神名をしらべ、その中で「彦・姫」の名をもつものの比率を計算し、その意味を考えるというのが、主旨のようでした。
中島さんは、2010年12月「能登と越中の彦姫神についての一考察」という報告をしておられ、そのときの結論は「彦姫神社の多い国をみると、都ー平城・平安京ーからみて周辺部に環状に分布している…この事実は「文化周圏論」で説明されるのではないか」ということでした。
ヒコ[彦・日子]とワケ[別・和気]など
今回の報告で、中島さんは「座数と社数」の問題にふれたあと、「彦姫の亜種・変種」として、つぎのように指摘しています。
おなじヒコ・ヒメでも、[彦・姫]のほか、ヒコ[日子・比古・毘古・孫]・ヒメ[日賣・比賣・毘賣・比咩]など、いろいろな表記法がある。[彦・姫]のほうが、比較的新しい表記法と考えられる。
また、「和気命」や「別命」のワケ[和気・別]も、ヒコ[彦・日子]に相当するものと考えられる。
数理統計学的に分析
この日の研修会について、仙石代表がブログ(「山川旅人日記」5/24号)の中で、こう紹介しておられます。
能登に多いヒコ、ヒメがついた神社の全国分布を数理統計学的に分析するとどうなるか。
こんなテーマを思いついて試みた人がかつてあったか。
誰も思いつかないことをやってみることに大きな意義があり、結果はカミのみぞ知る。
大きなテーマを投げかけると後世に思いを伝えることができるのでは…
当然、話題・議論が百出、制限時間を超えたところで、ひとまず打ち止め。終わってもあちこちで情報交換が続く研修会でした…
わたし自身としては、『文化周圏論』も おもしろいと思いますが、「神社(神名)の全国分布を数理統計学的に分析する」という発想に、まずビックリ、そして
やがて賛同しました。ただし、「数理統計学的に分析」というのは、実際には問題山積だろうと思います。第一、中島さん ご自身が 指摘して おられるとおり、日本語の文書資料が
漢字・カナ・万葉仮名など、表記法が 分かれているので、どんな姿の文書資料を分析するのか という問題が あります。第二、「骨折り損の くたびれ もうけ」にならないよう、分析項目の選定が問題です。ヒコ・ヒメだけに
しぼるか、ワカ・ワケなどを追加するか などの問題です。この ばあい、古代日本語(ヤマトコトバ)の音韻に かんする知識が 参考になるかと思います。
古代天皇名の中のヒコ・ヒメ・ワケ
わたしは 神社名の分析を したことは ありませんが、音韻論の視点から『古事記』に でてくる天皇名を分析して
みた ことが あります。そのときも、ヒコと ならんで ワカ・ワケ(ヲケ)の称号が
おおい ことに 気がついた ことを おぼえています。
神武天皇から推古天皇までの天皇名を「漢語ふう」、「ヤマトコトバふう」の順にならべてみると、つぎのようになります。
古代天皇名(岩波文庫『古事記』による)
1. 神武 カムヤマトイハレビコノミコト
[神倭伊波禮毘古命] pk, mkt
2. 綏靖 カムヌナカハミミノミコト
[神沼河耳命] mkt
3. 安寧 シキツヒコタマテミノミコト
[師木津日子玉手見命] pk, mkt
4. 懿徳 オホヤマトヒコスキトモノミコト
[大倭日子鉏友命] pk, mkt
5. 孝昭 ミマツヒコカヱシネノミコト
[御真津日子訶恵志泥命] pk, mkt
6. 考安 オホヤマトタラシヒコクニオシヒトノミコト
[大倭帯日子國押人命] pk, mkt
7. 孝霊 オホヤマトネコヒコフトニノミコト
[大倭根子日子賦斗邇命] pt, mkt
8. 孝元 オホヤマトネコヒコクニクルノミコト
[大倭根子日子国玖琉命] pk,
mkt
9. 開化 ワカヤマトネコヒコオホヒヒノミコト
[若倭根子日子大毘毘命] pk,
mkt
10. 崇神 ミマキイリヒコイニヱノミコト
[御真木入日子印恵命] pk, mkt
11. 垂仁 イクメイリヒコイサチノミコト
[伊久米伊理毘古伊佐知命] pk, mkt
12. 景行 オホタラシヒコオシロワケノスメラミコト
[大帯日子淤斯呂和氣天皇] pk,wk, smrmkt
13. 政務 ワカタラシヒコノスメラミコト
[若帯日子天皇] wk, pk, smrmkt
14. 仲哀 タラシナカツヒコノスメラミコト
[帯中日子天皇] pk, smrmkt
15. 応神 ホムダワケノミコト
[品陀和氣命] wk, smrmkt
16. 仁徳 オホサザキノミコト
[大雀命] mkt
17. 履中 イザホワケノミコト
[伊邪本和氣命] wk, mkt
18. 反正 ミヅハワケノミコト
[水歯別命] wk, mkt
19. 允恭 ヲアサヅマワクゴノスクネノミコト
[男浅津間若子宿禰命] wk, mkt
20. 安康 アナホノミコ
[穴穂御子] mk
21. 雄略 オホハツセノワカタケノミコト
[大長谷若建命] wk, mkt
22. 清寧 シラニノオホヤマトネコノミコト
[白髪大倭根子命] mkt
23. 顕宗 ヲケノイハスワケノミコト
[袁祁石巣別命] wk, wk, mkt
24. 仁賢 ヲケノミコト
[意祁命] wk, mkt
25. 武烈 ヲハツセノワカサザキノミコト
[小長谷若雀命] wk, mkt
26. 継体 ヲホドノミコト
[袁本杼命]
mkt
27. 安閑 ヒロクニオシタケカナヒノミコト
[廣國押建金日命] mkt
28. 宣化 タケヲヒロクニオシタテノミコト
[達小廣國押楯命] mkt
29. 欽明 アメクニオシハルキヒロニハノスメラミコト
[天國押波流岐廣庭天皇] smrmkt
30. 敏達 ヌナクラフトタマシキノミコト
[沼名倉太玉敷命] mkt
31. 用明 タチバナノトヨヒノミコト
[橘豊日命] mkt
32. 崇峻 ハツセべノワカサザキノスメラミコト
[長谷部若雀天皇] wk,smrmkt
33. 推古 トヨミケカシギヤヒメノミコト
[豊御食炊屋比賣命] pm, mkt
「古代天皇名には、実在しないものが おおい」と いわれますが、ここでは その問題には触れません。それにしても、ヤマトコトバふう天皇名は
サマザマです。
なかでも、ヒコ・ワケ・ミコトなどの語音を もつものが おおいことに 気づき、それぞれの子音字を
ひろって、pk, wk, mktなどのグループに わけてみたり しました。
公式には、すべて「○○天皇」とよばれる はずだと おもいますが、ヤマトコトバふうの呼び名では、まともに
スメラミコトのナノリを もつものは5/33で、 15%にすぎません。くらべて、ミコトが27/33で、82%。 ヒコが13/33で、39%。ワケ(ワカ)が11/33で、33%となっています。
人や神のナマエには、それぞれ だいじな メッセージが ふくまれている はずです。
[彦・日子]・[別・若]などの 漢字表記を 参考にすることは 必要ですが、漢字は もともと漢民族が漢語の意味を
表わすために つくった もので、ヤマトコトバのために つくったものでは ありません。
ヒコ・ヒメ・ワケ・ミコトなどの語音に、わたしたちの祖先が どんな メッセージをこめていたので
しょうか? 漢字表記を てがかりに しながら、さらに おくふかくに かくされた 真実の姿を たずねてみるのも、 たのしい こと だと おもいませんか?
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