2010年8月24日火曜日

いたち川命名の由来




いたち川は、どうしてイタチ川と呼ばれたのでしょうか?動物のイタチとは、関係があるのでしょうか、ないのでしょうか?

まず「角川・荷本地名大辞典・富山県」から引用します。
いたちがわ[鼬川]  水源は常願寺川で、上新川郡大山町上滝で取水された常西合口用水が…馬瀬口付近で分流されて、鼬(イタチ)川となる。用水合口化以前は、清水又用水として常願寺川から分水され、のちいかだ[筏]川と合流してから鼬川と称した…常願寺川扇状地面の一部を灌漑しながら富山市内中心部に入り、松川や赤江川を集め…北上して神通川に入る…
佐々成政は治水の技術にすぐれ、刀(タチ)雄(オ)神社(富山市太田本郷)の境内にある名木菩提樹の碑文に「天正年間富山城主佐々成政城下の治水灌漑を計って鼬川を開削す云々」

この「地名辞典」は、おおくの地名について語源や由来を解説していますが、ここでは「イタチガワ=鼬川」とするだけで、イタチの語源には触れていません。

「イタチ [鼬] が住んでいたからイタチ川」といわれると、なんとなくナルホドと思わないでもありません。しかしそれでは、動物のイタチ[鼬]は、どうして「イタチ」と呼ばれることになったのでしょうか?

動物のイタチ[鼬]は、その生態から命名された可能性があります。イタチ川は動物ではありませんが、「流れる」「あふれる」「泥田(可耕地)をのこす」など、いろんな表情や運動をしてみせます。イタチ川という呼び名もまた、その生態(状態)からの命名かもしれません。

そんな思いで、ネットで「イタチ川」を検索しているうちに、(前回ご報告したとおり)横浜市にも「イタチ川」が流れていることに気がつきました。「秋のいたち川小景・生涯学生気分・Yahoo!ブログ」に出会ったからです。

このブログは「この川の名前は動物のイタチでなく、『出で立ち』に由来しているとの説が有力」とのべ、その論拠として、徒然草の兼好法師が五七五七七の頭に「イタチカハ」をよみこんだ歌を紹介しています。
 いかに わが ちにし ひ より りの きて 
        かぜだに ねやを らはざる らん

[大意]
 カにも矢が飛んでイク姿で、私は旅にチました。その日からあと、(住人のいないわが家に)リが飛んで来て、たまるばかり。ゼが吹いたとしても、ねや[寝屋・閨]のチリを吹きラウことはないでしょう(イズミ訳)。

 こうしてみると、兼好法師は「イタチ川が流れゆく姿」を「旅人が旅にイデタツ姿」に見立てています。わたしも、この解釈に賛成です。

「イタチ川=イデタツ姿の川」という解説は、すっきりしていて、説得力があります。しかし、「イタチ川のイタチはイタチ[鼬]ではない」となれば、イタチ[鼬]はどうしてイタチと命名されたのでしょうか?

富山市を流れるイタチ川は堂々の1級河川。動物のイタチ[鼬]も、上代語辞典にのっているヤマトコトバの1級品。イタチ川が、その生態(状態)からの命名だとすれば、動物のイタチも、その生態からの命名と考えてよいはずです。

わたし自身の解釈(仮説)では、イタチ[鼬]もイタチ川も、ともにイタチ[射立]の姿をもっているからこそ、イタチと呼ばれたわけです。

ヤマとコトバの原理原則からみて、動詞イタツ[射立]が基本形で、イタチが連用形、兼名詞形と考えられます。この語形の役割は、英語動詞の分詞形、たとえばstand> standing, start>startingなどと よく にています。

ここであらためて、イタチ・イタツ関連のコトバを辞典でしらべてみましょう。
イタチ[鼬]=食肉目いたち科の獣。口吻から尾端まで、約50センチ。体は細長く、赤褐色。  

 尾は長く太い。窮すれば悪臭を放つ。夜間出て、鼠、鶏などを捕えてその血を吸う。種々の迷信・俗信に関係している。
イタチウオ[鼬魚]=硬骨魚目いたちうお科の魚。別称うみなまず。
イタチグサ[鼬草]=レンギョウ[連翹]=もくせい科の落葉潅木。中国原産。早春、葉に先立って鮮黄色・四弁の筒状花を開き美しい。
イタチグモ[鼬雲]=積乱雲の異名。
イタチゴッコ[鼬事]=①二人互いに他の手の甲をつねって我手をその上に載せ、交互にくり かえす子供の遊戯。②一つ事をくりかえすばかりで無益なこと。
イタチノ サイゴッペ[最後屁]=鼬が窮した時、肛門付近の腺から悪臭を放つこと。転じて、  窮して最後に非常手段に訴えること。   
イタツ[イ立ツ]自四=「イ」は接頭辞。立つ。

イタツ[射立ツ]他下二=矢を続けて射る。

(以上、『広辞苑』による)。

イタチ[鼬]=ネズミより大きく、ムササビに似た動物。動作がすばしこく、細いスキマから抜出て,出入する。(『学研・漢和大字典』による)。

自動詞のイタツ[イ立ツ]について、「イは接頭辞」と解説されています。しかし、「接頭辞には、なにも意味がない」と考えるのはマチガイ。イには、イル[射]・イク[行]などのイメージがあります。イタチ魚・イタチ草・イタチ雲など、よく観察してみると、どれもみんな「イタツ[射立]・イデタツ[出立]」姿を持っています。

たしかに、動物のイタチも、イタチ川も、旅人兼好法師も、みんな おなじイデタチでした。

これでほぼ一件落着ですが、いつかこんどは、大阪市のイタチボリ[立売堀]との関連なども考えてみたいです。

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